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Yasuhiro Koma

全仏オープン2023 -川又智菜美コラム Vol.01


全仏オープン“Roland-Garros”

この大会名を聞いて多くの方の頭にラファエル・ナダル選手の姿が浮かんでくるのではないでしょうか。赤土のコートをそれは雄々しく駆け巡り、繰り出される強烈なフォアハンド、試合が終わる瞬間まで諦めないファイティングスピリット・・・長らく彼は「クレー・キング」の名をほしいままにしていました。全仏オープンでは驚異の14回の優勝を誇り、なんと通算115試合をして112勝!昨年の優勝者ということで今年の全仏オープンのディフェンディングチャンピオンです。昨年の優勝の時は、(当時)35歳になってもこのグランドスラム優勝の景色を見せてくれることに感激し、クレーに君臨し続けてくれることに感謝したものです。グランドスラム前には前哨戦とも呼ばれるようなクレーコートでの大会がありますが、毎年こちらのクレーシーズンに突入するとやはり「ナダル選手の季節がきた!」と思い、ナダル選手の戦績や状態を追っていました。たしかに昨今、腹筋や股関節などの怪我に悩まされてきましたが、我々テニスファンは「きっと全仏までには・・・」と信じて止みませんでした。しかし、その思いは打ち砕かれることとなります。

「ナダルが記者会見を開く」

その知らせを聞いた時に、嫌な予感がしました。全仏本戦開幕のおよそ10日前という日取りだったということもあり、「全仏オープンのことなのではないか」「まさか進退に関わることも話すのではないか」と会見がはじまるまで緊張したものです。そして残念ながら、どちらの予感も当たってしまうこととなりました。


全仏オープン 2023 優勝予想

  • 0%カルロス・アルカラス

  • 0%ノバク・ジョコビッチ

  • 0%ダニール・メドベージェフ

  • 0%ホルガ・ルーネ



この日の会見で、ナダル選手はおおまかにわけると3つのことを発表しました。

・2023年の全仏オープンを欠場すること

・しばらくの間練習を含め休養すること

・来年がおそらく自分にとってプロツアー最後の一年となること

ナダル選手から「練習していても身体の痛みに耐える日々だった」という言葉があり、胸がぎゅっと締めつけられました。テニスファンならきっと誰でもと言っていいほどナダル選手の諦めない強い気持ちを知っていると思います。昨年のウィンブルドンでは腹筋を断裂しながらもフルセットの上で勝利する試合もありました。(ウィンブルドン2022準々決勝/フリッツ戦)あの時の試合は私自身リアルタイムで見ていましたが、どう見ても動きはいつもと違うし、ナダル選手の顔は苦痛に歪んでいるのに気力と気迫でフルセットを戦い抜いている姿を見ていたら、感動やら胸が締め付けられるやらで何とも言えない気持ちになったことを覚えています。次の試合は棄権という判断になったものの、その試合勝ってしまったのだから恐ろしいものです。

そんなナダル選手が、思い入れのある全仏オープンを欠場してしばらく休むというのだから、どれだけの痛みと苦悩を経たのだろうと・・・私たちは想像することさえできないほどです。ナダル選手の魅力は、そのプレースタイルや強さだけでなく、彼の紳士的な振る舞いや記者会見時などに見せるチャーミングな笑顔にもあります。ご本人が言うように、今はしっかりと休んでまた彼らしいプレーを魅せてくれ、あの笑顔が見られるのを待つばかりです。


ナダル選手は欠場となりましたが、次世代を担う選手たちがパリで戦いを繰り広げます。

今回は私の注目選手を皆さんにご紹介できればと思います。



〈カルロス・アルカラス〉(20歳)

現在のテニス界を語るにあたり、この選手を外すことはできないでしょう。現在ATPランキング1位のスペイン出身、アルカラス選手です。2022年の全米オープンでグランドスラム初優勝を果たし、史上最年少である19歳と129日でATPランキング1位に躍り出ることとなりました。ナダル選手を「自分のアイドル」と語っており、ナダル選手と後継者とメディアに書かれることも多くありますが、本人としては比較されるのは好きではなく自分の道を切り開いていきたいという強い意志も持っています。アルカラス選手の魅力は、天才的とも言えるその繊細なドロップショットです。タイミングとタッチセンスが絶妙でその鮮やかさにはいつも驚かされます。もちろんそのドロップショットを活かす強烈なフォアを含め、ストロークの緩急も素晴らしく、フットワークやその鍛え上げられた肉体も含めてこれでまだ20歳なのかと思ってしまうほどです。昨年の全仏オープンでは準々決勝でズべレフ選手に敗れたものの、今大会の堂々の第一シードです。今年のクレーシーズンはATP500の「バルセロナ・オープン」、そしてATP1000の「マドリード・オープン」でタイトル防衛をするという好調ぶり。全米オープンに加えて、この全仏オープンでも頂に立つことになるのか?注目です。



〈キャスパー・ルード〉(24歳)

昨年の全仏オープン準優勝だったノルウェー出身のルード選手。ATPランキング自己最高位は2位です。2022年は全仏オープンと全米オープンで共に決勝まで進んだものの、どちらも優勝までは届きませんでした。そんなルード選手を私が注目し、何より応援したくなるのはその人間性です。テニスというのは個人スポーツで身体的にもメンタル的にも過酷なスポーツであるが故に、選手たちは極限状態を曝け出すこととなります。そのような状況でイライラを爆発させてラケットを破壊してしまったり、主審に攻撃的な態度になってしまったりする選手もいることは確かです。グランドスラムとなると時には5時間を越えるような時間をあのコートの中たった1人で戦い続けなくてはならないのです。テニスは追い詰められるスポーツだと思います。ルード選手はどんな状況下でも、あまり心を乱すタイプではなく、端々にグッドガイなことがにじみ出るような行動をします。彼もナダル選手に憧れており、スポーツマンシップのお手本にしているそう。今までラケットを折ったことはなく、キャリアで一度もラケットを折らないことが小さな目標の一つだそうです。ぜひルード選手の試合をご覧になる際はその立ち振る舞いにも注目していただきたいです。プレースタイルとしては、スピン量の多いストロークで試合を展開していくのが特徴的。ツアー大会10勝のうち9勝がクレーコートというほどクレーコートと相性が良いルード選手、今大会はどんな戦いを見せてくれるでしょうか?


〈ヤニック・シナー〉(21歳)

史上最高のライバル関係と呼ばれるフェデラー選手とナダル選手のように、テニス界において注目されているライバル関係がうまれています。お互いを尊重し合いながらも切磋琢磨する選手たち・・・アルカラス選手とシナー選手もそのような関係になるのではないかと言われているのです。2人はもうすでに2022年の全米オープンでの戦いなどテニスファンの記憶に残り続けるであろう素晴らしい試合を見せてくれています。(この時は6-3、6-7、6-7、7-5、6-3でアルカラス選手の勝利)力強いアルカラス選手に対して、イタリア出身のシナー選手の特徴は天性のしなやかさにあります。身長は188cmとアルカラス選手より高いものの(アルカラス選手は185cm)その体つきはどちらかというと細身ですらっとしたような感じです。しかし、その長い手足をしなやかに使うことによって重くて伸びのあるストロークを繰り出しウィナーをとります。今までの戦績を見ると、ツアーで優勝したほとんどがハードコートでありハードを得意としていることが伺えます。とはいえ、2022年にはATP250「クロアチア・オープン」(クレーコート)でアルカラス選手を決勝で退けて優勝していることや2020年の全仏オープンではベスト8まで進んでいることから決してクレーコートが苦手ではなさそうです。今回は全仏オープンのクレーコートをいかに攻略していくのか?注目していきたいです。


今回名前をあげた3人の選手以外にも、現在大注目されているルーネ選手や、日本の西岡良仁選手など楽しみな選手は数多くいます。

全仏オープン2023はどんなドラマが待ち受けているでしょうか?楽しみにこの期間を過ごしたいと思います。


このコラムの執筆者


川又智菜美(かわまた ちなみ)


・神奈川県出身

・慶應義塾大学法学部法律学科卒業後RSK山陽放送でアナウンサーをした後、フリーアナウンサーとなりTBSの朝の情報番組「はやドキ!」や日テレNEWS24のキャスター、WOWOWアナウンサーなどを担当

・社会人になってからテニスと出会い週に3-4回テニスをするほどハマっており、worldsports.jpにてテニスファン目線でのコラム連載







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